vol.10 ハッカの街で蒸留体験とアロマクリーム作り
ハッカ産業の隆盛で発展した北見
北見といえば、焼肉・玉ねぎに次いで出てくるのが「ハッカ」。かつて北見地方はハッカの一大産地でした。夏から秋にかけて乾燥した気候が続くここ北見エリアは、ハッカ栽培に適していたことから、盛んに栽培されていた時代がありました。収穫したハッカは、乾燥後、葉茎を水蒸気蒸留して「取卸油」を採ります。この取卸油が商人たちの間で取引されていました。取卸油を冷却し、分離したのがハッカ特有の香りがするハッカ脳(メントール)と呼ばれる成分です。明治時代、横浜や神戸にはハッカ工場があり、そこから輸出用のハッカの買い付けに商人たちがこぞって北見へやってきました。欧米では古くからハッカ油を薬として、菓子や紅茶の風味付けとして利用されており、日本から輸出されたハッカ油も人気があったそうです。その後、戦争の勃発や、価格競争の波にハッカ生産者たちは翻弄され続けるも、大正時代に入るとますますハッカ産業は盛んになりました。ハッカの買い付けに訪れる商人たちの滞在によって、大正時代の北見は、道東でも大きな歓楽街もある街に成長したほどです。
ハッカ記念館の成り立ち
昭和初期、ハッカの価格安定を求めた生産者たちの希望を叶える形で、ホクレンにより、ハッカ工場が北見に建造され、昭和9年に落成します。その翌年の昭和10年、工場敷地内に事務所兼研究所が作られました。
昭和初期は、北見地方のハッカが世界市場の70%を占めるほどの一大産業でしたが、日本以外のハッカが安価であったこと、寒冷地に適したビート(てん菜)栽培への転換も盛んになり、さらには、合成ハッカ(メントール成分を化学的に合成して作ったもの)の台頭により、北見のハッカ作付面積が年々減少してしまいます。昭和46年ごろ、ハッカを含む品目の貿易自由化が始まったことでさらに追い討ちをかけられた形になり、とうとう昭和58年、北見のハッカ工場が閉鎖となります。閉鎖によりホクレンから北見市が、事務所兼研究所と記念碑、実際に使われていた工場設備の寄贈を受け、昭和61年に「ハッカ記念館」としてオープンしました。
ハッカ記念館・薄荷蒸溜館へ行こう!
かつて実際に使われていたハッカの研究所が、そのまま移築されたハッカ記念館。そのお隣の薄荷蒸溜館では、北見のハッカに関する歴史や、ハッカの蒸留方法を学び、ハッカ油とエッセンシャルオイルを使ったアロマクリーム作りの体験ができます!
ハッカ記念館と薄荷蒸溜館は、北見駅からおよそ徒歩10分のところにあります。ピンクとグリーンのペールトーンに赤い屋根がかわいい建物がハッカ記念館、その隣の建物がハッカ農家が蒸留作業で使うハッカ小屋を再現した薄荷蒸溜館です。
ハッカ記念館は建築された昭和初期から使われていた当時の面影を残し、階段の手すりや、天井の細かい装飾などレトロモダンな雰囲気がとても素敵です!
ハッカの爽やかな香りはこうして出来る!
薄荷蒸溜館では、ハッカの葉から、どうやって爽やかな香りのあのハッカ油ができるのかを教えてもらいます。
薄荷蒸溜館に入ると、ほのかなハッカの香りとともに、正面の大きな棚に積んである乾燥したハッカの束の量に驚きます!9月中旬、薄紫色の花がつく前に刈り取り・乾燥され、蒸留の時を待ちます。そして、ハッカ棚の前には、蒸留設備があり、その実演を見ることができます。「分水器」の上部に黄色い液体の層となって見えているのが「取卸油」と呼ばれる採れたてのハッカ油なんです。
「あれ?ぜんぜんハッカの匂いがしないよ?」乾燥ハッカをそのまま嗅いでみても、実はまだハッカの匂いはしません。「ハッカの葉を手で揉みほぐしたり、蒸留してハッカ油になると香りがしますよ」と説明を受けて、葉を手のひらで細かく揉んで嗅いでみると・・・「ハッカの香りがしてきたよ!」乾燥ハッカから、ほんのりハッカ特有の香りがしてきました!
ハッカの歴史は蒸留の歴史でもあります。各農家で行っていた蒸留は、ハッカ産業の発展とともに大型で、高効率・高収量の蒸留設備へ移行していきます。
薪をくべ火を起こし、湯釜に水を張り、乾燥したハッカを桶槽に入れ、足で踏んで圧縮し、蒸留作業を行います。現代でいう蒸し器のようなイメージです。この時、火加減や水加減により、取れるハッカ油の量が変わるため、蒸留経験の長いお年寄りに取り仕切ってもらうことも。作業の合間の休憩には夜中でも家族みんながハッカ小屋に集まり、おにぎりやまんじゅうなどを食べて、団らんしていたそう。
ハッカの蒸留とアロマクリーム作りを体験をしよう!
こちらに掲載の体験プログラムは終了しました。 ※ハッカ記念館と薄荷蒸溜館は見学いただけます。
最初に取り掛かるのはハッカの蒸留の準備です。実演展示と比べ規模は小さいですが、原理は同じです。「蒸留」とは、沸点の異なる物質が混ざった液体を加熱することにより、特定の物質のみ気化させ、その気体を冷却し再び液体にすることで、特定の物質のみ取り出す操作です。(むむむ・・・化学の授業でならったような・・・?)そして、「水蒸気蒸留」は、沸点の高い物質と水を蒸留することで、通常の沸点より低い温度で水と一緒に気化した液体を冷却し、特定の物質を取り出す操作です。(ふむふむ・・・)乾燥ハッカに含まれる沸点の高いハッカ油成分が沸騰した水と一緒に水蒸気となり、装置の上のガラス管から冷却器を通り、冷やされ液体になります。この液体が比重の違いにより、油分と水分に分離することで、ハッカ油とハッカ水ができます。
数種の和種ハッカの乾燥したものを、蒸留釜である水が入ったガラスの容器に細かくしながら入れていきます。十分な量のハッカ油を採るために、出来るだけ上から押しながら詰め込みます。草の香りに混じって、ほんの少しだけハッカの香りがしてきました。
そして、冷却器へ水を注ぎます。「容器の上まで水を注いでください」「なんだか、化学の実験のようですね!」
最後に、蒸留釜をIHクッキングヒーターの上にセットして、スイッチオン!これで蒸留開始です!このまま、蒸留釜の中の水が沸騰を始めるのを待ちます。
実はハッカにもいろいろな香りがあるんです!
乾燥ハッカを入れた蒸留釜が沸騰し、蒸留作業が始まるまでの間に、いよいよハッカ油とエッセンシャルオイルを使った、オリジナルアロマクリーム作りを行います!
材料はこちら!本日のアロマクリーム作りの材料は、黄と白の粒状になった蜜ろう、白い固形のシアバター、透明な液体状のホホバオイル。講師の方から使い方を教えてもらいます。ナチュラル素材で作るクリーム、なんだかワクワクしますね。
アロマクリームの香りは、「ほうよう」や「あやなみ」などの和種ハッカから1種類と、ローズウッドやカモミールなどのエッセンシャルオイルから2種類選び、それぞれの香りがするクリームを3つ作ります。実は、同じ和種ハッカでも、品種によって香りが異なります。歯磨き粉や、タブレット菓子にあるような爽快感のあるハッカの香りを想像しながら、香りを嗅いでみると、、、「あれ!?甘い香りがする!」「爽やかなんだけど、強くない〜!いい香りがするね」今回の体験で使う4種類の香りを交互に比べると、なるほどよくわかります!
普段使う時にいい香りがして癒されそうなエッセンシャルオイルを、「これいい匂いだね!」「私はこっちかな?」みんな真剣に香りを確かめながら選んでいます。
そして香りを選んでいると、蒸留釜の方から、うっすらとハッカの香りがしてきました。温めていた水が沸騰を始め、乾燥ハッカに含まれるハッカ油の成分が水蒸気とともに出てきた証拠ですね!
ハッカの香りがしてきたよ!
蒸留釜から出てきた水蒸気を冷却するため、冷却器の水温を確かめながら、冷却器の熱くなった水を下の管から抜き、上から水を足します。
次に、冷却器で冷やされて出てきた、ハッカ油とハッカ水が冷却器の下の分液漏斗に溜まってきています。油と水は比重が異なるので、液体の表面にハッカ油の層が出来てきました!コックを少しずつ開き、ハッカ水だけを抜き取ります。そして匂いを嗅いでみると、、、「ハッカの香りがちゃんとするね!」再び、蒸留されて下にハッカ油とハッカ水がたまるまでの間、何度か繰り返します。
蒸留しながら、アロマクリーム作りの作業に移ります。まずは、クリームの材料を溶かしちゃいます!エッセンシャルウォーマーに、蜜蝋、シアバター、ホホバオイルの順に少しずつ溶かしながら入れていきます。
クリームの材料がすべて溶けたら、容器にゆっくりと注ぎ、エッセンシャルオイルを2〜3滴加えて、マドラーで均一になるよう混ぜ合わせ、ふたをして熱をとります。小さな容器はエッセンシャルオイルのクリーム、大きな容器は和種ハッカオイルのクリームです。
ハッカ油が採れた!
蒸留釜の水が濃いブラウンになってきたら加熱を止める頃合いです。分液漏斗で少しずつハッカ水を下のビーカーに移し、ハッカ油だけになるよう慎重にコックを開け閉めします。
たくさんの乾燥したハッカをぎゅうぎゅう詰めにしたのに、漏斗の中の薄い黄色の層になっているハッカ油。実際に採れるハッカ油はほんのわずか、原料の体積の割には、少ししか採れないんです。エッセンシャルオイルが高価な理由のひとつがここにありました。また、かつて自前の蒸留装置でハッカ油を採取していた人々は、大変な作業だったでしょうね。
ハーブティーでひとやすみ〜
ハッカ蒸留、アロマクリーム作り体験がひと段落したところで、ハーブティーとミントクッキーでひとやすみ!本日のハーブティーは、ローズヒップ・ハイビスカス・アップルミントのミックスです。クリアで鮮やかな赤色がとても綺麗!「甘酸っぱくて、すごくいい香りがする!おいしいね!」ハーブティーと一緒に今日作ったクリームの写真を撮影♪
アロマクリームができたよ!
「容器を触って熱くなければ、開けてみてみましょう」そう講師の方に促されて、おそるおそる開けてみると・・・「わぁ〜!クリームになってる!いい香り〜!」
クリームはかわいらしくパッケージしてもらい、みんなで蒸留をがんばって作ったハッカ油とハッカ水を小瓶とボトルに詰めてプラスのお土産に!使うのがとっても楽しみなアロマクリームになりました。ハッカ油やハッカ水はフットバスに入れて使うと、血行がよくなりとても温まるそうですよ〜!
取材・撮影協力
北見ハッカ記念館
〒090-0812 北見市南仲町1丁目7番28号
TEL・FAX / 0157- 23-6200
開館時間:9:00~17:00(5月〜10月)9:30~16:30(11月〜4月)
休館日:月曜日(月曜日祝日の場合は翌日休館)、祝日の翌日、年末年始(12月30日~1月6日)
ハッカ記念館ホームページにて休館日カレンダーを確認できます。
http://www.kitamihakka.jp/
こちらに掲載の体験プログラムは終了しました。
※ハッカ記念館と薄荷蒸溜館は見学いただけます。